ほどなく、14社14製品の情報が集まりました。その中から村上氏は「XHQ」を含む4製品に候補を絞りこみます。重視した要件は、日本での実績、コスト、リアルタイム性でした。当時、日本でこの分野のパッケージソフトウェアを導入していた企業はほとんど存在していなかったのですが、少なくとも日本法人があり、迅速な対応が可能かどうかを検討しました。またいくら利便性が期待できても、自社開発プログラムを移行するよりコストがかかっては元も子もありません。さらに、リアルタイム操業マネジメントを標榜していても、実際にはリアルタイム表示ができないものもありました。村上氏はそのようにして要件を満たしていないものを一つ一つ消去していきました。 最終決定を行うため、4つの候補製品を持つベンダーに、出光興産での導入を前提とした提案を依頼しました。その中で最も理解しやすいプレゼンテーションを展開したのが、日揮情報システムでした。村上氏はこう語ります。 「日揮情報システムは、石油精製や石油化学コンビナート建設の経験が豊富な日揮を親会社に持つだけあって、われわれの業務を熟知していました。このようなシステムは、ソフトウェアの効能だけ謳ってもダメで、業務を知らないと使えるものは構築できないのです。彼らには実績に根ざしたコンサルティング能力がありました。“製油所でならこう使え、このような効果が期待できる”と具体的かつ力の入った提案をしてくれたので、任せても大丈夫だと思いました」 村上氏はこの製品をさらに詳しく知るため、2006年1月、米国で開かれたシーメンスのXHQユーザーカンファレンスに参加しました。そこでは、エクソンモービルやシェブロン、サウジアラムコなど、名だたる石油メジャーがユーザーとして名前を連ね、全社展開している導入事例を紹介し、実際に開発した画面を見せていました。同氏はその様子を見て“これならいける”と確信を持ったそうです。石油メジャー各社がこぞって導入している製品だったことも、出光興産におけるXHQ採用決定を後押ししました。 帰国後さっそく、村上氏は国内利用第一号の製油所を決定すべく、各製油所を回って導入を打診します。日本では前例のないシステムであったため、なかなか一朝一夕に理解を得るというわけにはいきませんでしたが、その中でも導入に前向きな姿勢を示したのが、出光興産株式会社 北海道製油所 執行役員 北海道製油所長 水田(すいた)清継氏でした。 北海道製油所は、2003年に発生した十勝沖地震で大きな被害に遭遇した経験があります。原油、ナフサタンクが炎上したのみならず、所内の設備の至るところに深いダメージを受けたのです。全所一丸となって復旧に力を尽くしましたが、完全に元通りになるまでには長い年月を要しました。そうした過去があるだけに、高いレベルでの操業管理や安全操業への思いは他の製油所よりひときわ強いものがありました。また、所長の水田氏自身、前々から“このような形でデータを見たい”という考えを抱いており、それがついに実現できることをXHQを見たことで悟ったといいます。
おりしも出光興産では、2006年をめどに東京証券取引所への株式上場を計画していました。ひとたびパブリックカンパニーとなれば、ステークホルダーに対して重大な説明責任が生じます。決して時期を合わせたわけではありませんが、XHQ導入で操業マネジメントが高度化することには大きな意義がありました。このような理由によって、北海道製油所からの評価運用が決定したのです。
XHQ導入プロジェクトは、2006年2月にスタートを切りました。技術部からは村上氏、北海道製油所からは出光興産株式会社 北海道製油所 管理課 古戸英雄氏が代表プロジェクトメンバーとなり、日揮情報システムからはプロジェクトマネジャーを含め7名の担当者が、この案件を全面支援することになりました。
XHQは、シンプルにデータを表示する新IRISと違って、そのデータがあるべき目標に対してどのような水準にあるかを示すことを重視します。そのため、プロジェクトはどのようなデータを指標としてそれをどのように解釈するかという定義から入りました。この作業には、エクソンモービルでXHQの導入経験のあるシーメンスのエンジニアも参画し、安全管理、環境管理、品質管理など各分野に関して指標を提案しつつ、プロトタイプシステムを開発しました。出光興産側はそれを見ながら、“もう少し詳細レベルで把握したい”“このデータでは状況は掴めない”などと意見を述べる形でシステムの完成度を高めていきました。 そうした作業を繰り返すうちに、日揮情報システムのエンジニアは、プラントに関する知識はあっても製油所そのものを知っているわけではないことに問題を感じ、村上氏に現場勤務を体験することを願い出ました。村上氏もそれはいいことだと賛成し、エンジニアを操業の最前線へ送り出しました。 エンジニアは製油所の操業現場を肌で知るとともに、製油所所員とコミュニケーションを深めることで、システム設計構想をより現場に密着したものにすることができました。プロジェクトメンバーの古戸氏は、当時を振り返って次のように語ります。「現場に入ったエンジニアを始め、日揮情報システムの担当者とは、われわれが日常利用する言葉で話すことができました。石油業界は専門用語がたくさんあり、この業界を知らないエンジニアだったら、一つ一つ解説していかなければならないから、スタートラインにつくまでに相当時間がかかったことでしょう。しかし、彼らは全部理解していたから、なんでも話が早かった。システムの本質論から入る事ができたのは、迅速な運用開始をめざしていた私たちとってはありがたいことでした」 今回、出光興産北海道製油所では、システム設計開始からなんと4ヶ月という短期間で、XHQを立ち上げることに成功しています。 実現の背景の一つには、日揮情報システムのプロジェクトメンバーに深い業務ノウハウがあったことも事実です。 しかし、それ以上に重要だったのは、XHQで表示させたいデータの整理が「新IRIS」時代にすでに完了していたことです。 ほとんどのデータは各種業務システムのデータベースに格納されており、KPIさえ決定してしまえば、あとはXHQはそこからデータを取得するだけですみました。 「最近、経営トップからの要望を受け、ダッシュボードシステムを構築したいと考える企業が増えているようですが、データの整備ができていなければ迅速な立ち上げは困難でしょう」(村上氏)